衣装の基本          

衣装
役者の着る衣装は、登場人物の性別・年齢・立場・出自など「個人」に関する情報、 物語の場所、季節、戦時中など「状況」に関する情報を豊かに伝えます。
例えば、登場人物が「セーラー服+もんぺ」という格好をしているだけで、 太平洋戦争中の物語であることが瞬時に伝わります。

劇で使う衣装は、演出の方向性・舞台装置との統一感が重要です。


リアルな舞台装置+リアルな衣装
平成20年頃という具体的な時代設定、高校生が老人を演じるギャップなどを、 リアリティの力で押し切ります。

簡素/デフォルメされた舞台装置+リアルな衣装
大海に浮かんだ小島が舞台なので、観客の想像力の助けを活用します。

素舞台+抽象的・多義的な衣装
各キャストが劇中劇で一人何役もこなします。

リアリティ
衣装のリアリティをどこまで求めるかは、舞台装置よりも難しい問題です。
舞台装置を置かない劇はたまにありますが、なんらかの衣装を着ない劇はあり得ません。 つまり、必ず見せなければならないものであり、見せた途端に情報/メッセージとして機能し、 劇の評価に影響を与えます。
「犬」役であれば必ず着ぐるみを着なければいけないというわけではない。 人間の普通の衣装を着て出て来て「犬です。」と宣言するのもアリです。 ただし、それなりの(演劇的な意味での)必然性がないと、「手を抜いた」と思われかねません。
物語の時間進行が半年以上に及ぶ場合、衣装替えが一度もないと季節感に乏しい劇となります。
高校生だから自校の制服で演じればよいかというと、そうでもない。 昔と違い、県内でも、各校、個性的な制服を採用しています。 それを見せられる観客は、どうしても潜在的に「○○高校の生徒」という見方をしてしまうかもしれません。
例えば、「牛を飼う農業高校」という内容の既成作品に取り組むとします。 共愛学園や高崎経済大附属といった、おしゃれで特徴的な制服を着て演じていた生徒達が、 次のシーンではジャージ姿で「農業実習」をやる。 そんな場面に出くわしたら少なくとも群馬の観客はどう感じるだろう。
キリスト教の「神父」「修道女」は非常に特徴的な衣装ですが、カトリックに限られます。 日本のお坊さんが、チベット僧のような(あの黄色い)恰好をしていたら違和感がありますよね。
そういう違和感を排除しつつ、なるべくなら手に入れられるもので済ませる。
右前・左前
相手から見て右側、自分から見て体の左手側が外に出ていることを「右前」と言います。
洋服は通常、男性=右前・女性=左前合わせになっています。
女子部員が男子役をする時、シャツの合わせが「右前」でない(自前のブラウスを着ている) ことに違和感を覚える観客は一定数います。
それに対して、和服、浴衣、武道の稽古着などは男女ともに右前で来ます。 白い「死装束」は左前となります。(幽霊役で着ることがあるかもしれませんよね)

手に入りづらい衣装
宇宙服やロボット、時代物、非日常的なもの(化け物など)は、最初から手作り覚悟でしょうが、 ありそうでないのが「警察官の制服」です。
防犯の観点から、古着も含め通常のルートで一般販売されることはないそうです。 「お巡りさん」役を登場させる劇を上演しようと考えている場合は、注意してください。
いわゆるコスプレ用に「素材とデザインが明らかに異なるがそれっぽい」ものは市販されていますが、 気楽なコメディ以外では使えないでしょう。
写真等をもとに手作りすること自体は違法ではありませんが、 「公衆の面前で警察官と見間違わせるような制服や装備品を身に着ける」と軽犯罪法に触れます。
お巡りさんの衣装で屋外の発声練習したりしないように注意!

舞台特有の注意点
メイクで汚れます
演劇で使う衣装は、どんなに注意しても、役者のメイクが付着して汚れます。
舞台上で動きまわるので、大道具に引っ掛けたり、相手方の手指や爪で破損するかもしれません。
家族や知人の衣服を借りる場合は、その点を十分に考慮した上で依頼してください。

照明との兼ね合い
衣装に付属するガラスや金属の飾り、スパンコール、眼鏡、腕時計などに舞台照明の強い光が反射して、 ミラーボールのようにホリゾント幕に光点を作ってしまったり、観客の眼を眩しがらせる場合があります。
衣装として眼鏡をかける場合は、できればレンズを外したものを用意しましょう。
腕時計の反射を防ぐには、金属製ベルトではないものを選び、 文字盤面にセロハンテープ(透明でよい)を貼ることでかなりの効果があります。
また、大きなつばのある帽子を長時間かぶり続けることは避けます。 地明かりの影響で、顔に濃い影を落としてしまうからです。
また、舞台照明は一般にハロゲンランプを使用しているので、太陽光・教室の蛍光灯に比べ 色温度 が低めです。自然光でいうと、夕方の日の光に近いと思ってください。
特に、青色系がグレーっぽく見えます。 「教室で確認した時はいい色合いだと思っていたが、舞台に立ったらくすんだ感じになってしまった」 という失敗を避けたい時は、白熱電球またはハロゲンランプの照明の下、 蛍光灯であれば「電球色」の照明の下で色合わせをしましょう。
靴音
地がすり(パンチシート)を敷かない白木の舞台の上、平台の上を革靴で歩き回ると、 道路を歩くよりカツカツと足音が響きます。
気になる場合は、靴底に当て布をして音消し処理を施します。
安全ピン
舞台衣装は慣習的に「安全ピン」NGです。
理由は、ちょっと荷重がかかっただけで思った以上に外れやすく、外れた時に刺さってケガをしやすいから。
安全ピンを使いたくなるような所も、ちょっとした労を惜しまず、針と糸とで軽く仮縫いして処理しましょう。 端を止めずに軽く縫った程度では間に合わない強度が必要なら、安全ピンでも間に合いません。
劇中での着脱が必要なら、ボタン、マジックテープ等をしっかり付けてください。

著作権・版権
衣装関係にも 著作権・版権 への配慮が必要となる場合があります。
キャラクターものの手作りは可能な限り避けてください。
例えばスー○ーマンの衣装や「S」マーク入りTシャツを使いたい時、 市販品を買って着ることには問題ありませんが、 手作り衣装であの特徴的な「S」と描くのはNGとされています。